秘密の恋は1年後

 エレベーターに乗ると、彼は操作盤に鍵をかざした。すると、三階のボタンが灯る。

 社長とふたりきりになれたら、なぜ私を自宅に連れてきて手を繋いだりするのか、起きた出来事に納得できる理由を聞きたかったのに、他の住人も一緒でタイミングを失った。

 だから、自分の鼓動の音に集中して、できるだけ彼を意識しないようにする。
 それなのに、彼は私の手をギュッと心地良い強さで握り、離してくれない。

 私の気持ちも知らないくせに……。
 ずっと好きでいると告白したら、彼はどうするんだろう。

 そんなことを考えている間に、三階でドアが開いた。
 彼は乗り合わせた住人に会釈し、私の手を引いてエレベーターを降りる。


「あの……本当にお邪魔して大丈夫なんですか?」
「もちろん」

 社長が既婚とは聞かされていない。
 結衣さんとは、決して揺らぐことのない固い絆で結ばれているからこそ、堂々と私を連れてきたのかもしれないと思うと、切なさで胸がいっぱいになった。

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