秘密の恋は1年後

「お邪魔します」

 個室のドアをノックして顔を覗かせたのは、この店のオーナーの立花さんだ。
 彼は、銀座にある老舗和菓子店の五代目で、最近飲食業に進出し、早くも業績を伸ばしている手腕の持ち主でもある。


「立花さん、ご紹介しますね」

 長身の男三人が揃って個室で立ち上がり、挨拶を交わす。
 千堂さんと名刺交換した立花さんは、名前を見るなり気づいたようだ。


「もしかして、千堂さんのご兄弟の方ですか?」
「はい。千堂尚斗の兄です」
「そうでしたか! 弟さんにはいつもご利用いただいておりまして、どうぞよろしくお伝えください」

 はんなりした着物姿の立花さんは、腰を折って挨拶してから、座敷に上がった。

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