秘密の恋は1年後
「すみません、ちょっと仕事してきますね。また戻ります」
立花さんが他のお客の見送りに、座敷を出ていった。
「井浦さん」
「はい」
テーブルの向こうから、千堂さんに話しかけられた。
「弟のこと、よろしくお願いいたします。身内びいきかもしれませんが、尚斗はきっといい仕事をします」
「身内びいきなんて思いませんよ。現に、彼ほど成果を残してくれた社員はいませんから」
「それから、弟は極秘で社内恋愛しているので、しばらく見て見ぬふりをしてやってください」
「……社内に、相手が?」
にこっと微笑んだ千堂さんが、日本酒の猪口を傾けて一気に飲む。
彼はどんなに酒を飲んでも、まったく崩れることなく凛々しいまま。きっと、本当の姿を知っているのは奥さんだけなんだろうなぁ。
俺が優羽に心を許しているように。
それにしても、千堂の恋人はいったい誰なんだろう。