クールな社長の耽溺ジェラシー
車で一時間ほど走ったあと、やってきたのは一等地にある趣のある料亭らしきところだった。
周りの雑踏を遮るように緑鮮やかな木々が雰囲気のある平屋を囲い込み、長い石畳を歩いて玄関へ着くとさりげない看板が掲げられている。
「部屋は中庭が見えるところをお願いしてる。もう少し暗くなれば、明かりもつくはずだから。たぶん、気に入ってもらえると思うけど」
「新野さんがデザインしたんですか?」
「ああ。会社を起ち上げる前、フリーのときにここの照明をやらせてもらった」
「フリーのとき、このお店……」
佇まいから一流の店だとわかる。こんなところの照明を設計させてもらえるなんて、やっぱり才能があったからだ。
中へ入ると上品な女将さんに案内され、中庭に面した離れへ案内された。
ライトは点いていたけれど、まだ空が紺色に染まりはじめたばかりなので美しさが物足りない。きれいなものは光りと影があって成り立っている。
「一応、コースを頼んでるけど、気になる料理があったら追加したらいから。ここはどれを食べてもうまいよ。酒も好きなのを飲んだらいいし」
「ありがとうございます」
とはいえ、メニューから飲み物を選ぼうとするけれど金額が書かれていない。
食事のほうをめくっても、数字はひとつも見当たらなくて料理名だけが並んでいた。どうやら和食というよりも和フレンチの店らしかった。
金額が書かれていないということは時価? まさかすっごく高いんじゃ……。
「このワインがうまいよ。最初の料理にも合うし、飲みやすい」
メニューを見て固まっていた私に新野さんが指を差して教えてくれる。私だけ飲むのも悪いかと思ったけれど、そんな気遣いも忘れるほど当たり前のように勧められて素直にうなずいた。
「じゃあ、それでお願いします」
「わかった」
満足そうに微笑む新野さんに、この人はただ私に楽しんでほしいんだと感じて余計な考えを振り払った。