治癒魔法師の花嫁~愛しい君に誓いのキスを~
 執務室の奥に設置されている仮眠室だ。

 執務が立てこみ、夜を徹して仕事をしないといけない時などに、誰にも邪魔されず、ささやかな休憩を取る場所……という体を取っているが、何のことはない。

 お忍びと称して王都内を出歩き、気に入った街娘等を、侍女姿で連れ込んで、一晩楽しむ部屋だ。

 もしかすると、王宮内で王に仕えている本当の侍女たちも、餌食になっているかも知れない。

 そんな怪しい部屋のベッドにリーゼは、寝かされていたのだ。

 一糸まとわない、生まれたままの姿で。

 リーゼは。

 いいや、リーンハルトは、昨年十八才で無事に成人の儀を終え、ついでにヴァイスリッター家も継いだのだ。

 男装が見破られるようなヘマをした覚えも無い。

 男でないと家を継げない、国を二分する大貴族の当主を根拠も無く女扱いするような無礼。

 ましてや、そこらの遊び女のように捕まえ、服を脱がせるなどという侮辱はいくら王国の主でも簡単にはできないはずなのに。

「き…………」 

 信じられない……!

 ありえない状況に、素である女子の悲鳴を上げそうになって、リーゼは声をこらえた。

 服を脱がされ、あまり大きくは無いが、形良く丸い胸を。

 男の象徴のない、滑らかな丘も。

 全てを露わにしてしまった以上、これ以上隠しだてなど出来ない。

 けれども今まで男として……一流の剣士としてグランツ王国に名を馳せたのだ。

 相応の矜持、と言うモノがある。

 見苦しく騒ぎ立てる真似など、絶対出来なかった。

 それでも反射的に身を隠す物を探そうとして、身体がほとんど動かせないことに気がついた。

 手に握力は無く、腕は持ちあがらず、脚を動かそうともわずかにシーツを蹴ってあがくばかり。

 布に包まることもできず、見せたくない場所を手で覆い、自らを抱きしめるぐらいが関の山だ。

 自分の身体が自由にならないことに驚いて……焦って。

 身悶えするリーゼの様子を見て、ヘンリー王が、喉の奥でくくくくっと笑った。
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