治癒魔法師の花嫁~愛しい君に誓いのキスを~
「悲鳴を上げずに良かったな。
 この部屋には、世と貴様が二人で立て籠り『苦山攻略の密談』していることになっている。
 余計な物音を立てれば、表裏の近衛や、侍従たちが山盛りで入って来るだろうよ。
 困るのは、世ではなく、痴態をさらしている貴様の方だ」

 そんなヘンリー王は、リーゼの横になっているベッドに腰を落ろしてくつろいでいる。

 さすがに私室にいるのだ。

 王位を表わすような仰々しい上着は着ていなかった。

 が、それでも一目で高級品だと判る白い長そでのシャツ、黒ズボンを履いた彼の着衣に乱れは無い。

 もしかしたら、全裸のリーゼが王を誘っているようにもみえるだろう。 

 そんなヘンリーの言葉に、身体の自由を奪われたリーゼは唇をかみしめることしかできなかった。

 王に女とバレた時点でリーンハルト率いるヴァイスリッター家は、崖っ淵どころか、そこから滑り落ちてしまっている。

 が、問題はそれだけでない。

 グランツ王国では、貴族の娘は、その素肌を夫以外の男には決して見せないという古い習慣がある。

 なのに、王だけでなく近衛兵やその他もろもろの男たちに素肌をさらしたとあっては、とんでもないことだ。

 家は断絶のみならず、リーゼ自身の評判を落とす。

『品位に欠ける』と烙印を押されれば、失脚した貴族の最後の砦、修道院にさえ入れない。

 神に仕えて、罪を償おうとしても、修道院に拒絶されれば、全ての責任を現世で取るため、まず、自害。

 良くても、王都から追放されて、ヴァイスリッター縁の辺境の古城地下深くにでも、監禁状態になってしまう。

 そうなってしまえば、リーゼの未来は無い。

「これは一体……どう言う……おつもりですか?」

 怖い……なんて。

 怯えていても、表に出せず。

 何一つ自由にならない身体の中で、ろれつの回らない口をなんとか開けば、王は、更に喉の奥で笑った。

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