治癒魔法師の花嫁~愛しい君に誓いのキスを~
「ねぇ、リーゼ。
 リーゼロッテ・フォン・ヴァイスリッター?
 君は偽物なんかじゃないよ」

 リーゼは、グランツ王国での勢力をラファエルの家と二分する大貴族の子どもで間違いない。

 そう、ささやく彼の声に、リーゼは、ふるふると首を振った。

 リーゼの母は、貴族出身ではない。

 とはいえ。

 リーゼの面ざしは、その昔。

 王国の宝と呼ばれた美人と名高い父方の祖母と瓜二つだったから、リーゼの血統を疑う者は誰もいなかった。

 けれども。

 自分の『偽物』の場所はそこじゃないの、と。

 リーゼは溢れる涙をそのままに、訴える。

 今、身にまとっている、まるで花嫁が着るような純白のドレスも。

 長く伸ばした、明るい金髪を、今時の娘たちの間で流行している髪型に結いあげてみても。

 そして、ラファエルと一緒におとなしく馬に揺られている、と言うことさえ。

 いつものリーゼとは全く違っているのだから。

 陶器のように滑らかな肌のリーゼは、十六才。

 同じ年ごろの貴族の娘たちは、皆、嫁入り準備にいそしんでいるというのに。

 普段のリーゼは、男物の衣装をきりりと着て、剣を振りまわし。

 風のように颯爽と、白銀の愛馬を一人で乗りこなす、男装令嬢だったのだ。

 ラファエルは、若く、美しくも男らしい。

 そして、身分も高い彼ならば、男だか女か解らない自分よりも、可愛い女の子の方が絶対似合う。

 そう思って悲しくなったのだ。
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