お見合いだけど、恋することからはじめよう
「……ウソ、ですよね?」
あたしが赤木さんのLINEをまた消したことは事実だけれども。
……だって、彼はせっかちな性格だから。
待ち合わせしたとき、あたしが五分前に来たにもかかわらず、もうイライラしてたもん。
「うん……ウソだよ」
近寄りがたいほど整った目鼻立ちのはっきりした顔が、人懐っこそうな笑みとともに崩れていく。
……やっぱり。
「ほんとは、エントランスの総合受付にいる高坂さんにお願いしてたんだ。
『秘書室の水野さんが出てきたら、速攻で教えて』って」
入社二年目の高坂 愛実は、同期だった美紀子が寿退社してから入社してきた子だから、あたしと赤木さんの「因縁」を知らないのだ。
……それに愛実ちゃん、押しの強いタイプに弱そうだからなぁ。社外ならともかく、出向しているとは言え、赤木さんは社内の人だしね。
小柄でおとなしい彼女が、危機を察知した小動物のように赤木さんに警戒しながらも、結局は言いくるめられてしまったであろう様子がありありと目に浮かんだ。