お見合いだけど、恋することからはじめよう

「……じゃあ、なんであのときに、そう言ってくれなかったの?」

あのとき、赤木さんがそう言ってくれていたら、信じられていたのに。

あのあと、あたしは、すっかり騙されてしまった自分の愚かさを責めて、自分自身の存在すべてがイヤになるほど追い詰められた。

「悪かった……ほんとに悪かった、七海」

赤木さんはあたしに頭を下げた。

先刻(さっき)のショットバーでも頭を下げていたが、あの頃のプライド高き赤木さんには考えられないことだった。

いくら、専務の「引き」があったからといって、東京から名古屋の関連会社への出向は「都落ち」の感が否めないのは事実だ。

この三年は、彼にとっても「試練」だったのだろう。

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