一円玉の恋
恐る恐る、声の聞こえた方に振り向いた。
げっ!いた!
いやー見たくない。見たくない。
会いたくない。会いたくない。
嫌い。嫌い。なのに、何故?

「すっごい、勢いで歩いて行くからさ、後ろから見てて面白かったよ。アンタよっぽど怖い顔してたんだね。すれ違う人皆んな引いてたし。今も怖い顔してるし。せっかく可愛い顔してんのに台無しだね。はっは。」

と、男が何事もなかったようにまたニヤニヤと話しかけてくる。

「何か?」

「いや、別に。あっ、ちなみに俺の家ここね。」

と、ウチのアパートの目の前に聳え立つ大きなマンションを笑顔で指差した。なんたる格差…。

「時々、すれ違ってはいたんだよね。アンタがバイトしてるコンビニも良く利用するしさ。他のお客には可愛い笑顔で対応してるのに、俺の事は苦虫噛み潰したような太々しい顔で見てくるしさ。あれってお客様に向かってかなり失礼だよね。」

けっ!アンタも不遜な態度じゃないか!
無視だ!無視!
構わず部屋に入ろう。と、足に鞭打ち階段を駆け上がろうとした。

「あ、おーい。入っちゃうの?ねえねえ、良かったらさ。俺ん家でお肉一緒に食べない?俺の買い物カゴ見て物欲しそうに涎垂らしてたじゃん。」

キッと睨んで。「お構いなく。」と、部屋に急いで入った。
あー腹立つ!会いたくない。見たくない。

はぁーー。ご飯。ご飯。レポート。レポート。
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