カラダから、はじまる。

茂樹(しげき)以外の中高時代の友達を紹介したいんだ。
あっ、恭介(きょうすけ)は実家の会社を継ぐとか継がないとかで親戚と揉めてイギリスへ行ったきり、結局帰国しなかったけどな」

……田中だった。

「そうなんだ。松波(まつなみ)さんに会えなかったのは残念だなぁ。和風イケメンの島村(しまむら)室長とは真逆の、洋風イケメンなんでしょ?」

七海はちょっぴりがっかりした顔を見せた。

「……ななみんは一生、恭介に会わなくていい」

田中の顔が、つい先刻(さっき)結婚式を挙げたばかりの幸せいっぱいなはずの新郎とは思えないほど「極悪人」に変化(へんげ)した。このあと何人(あや)めるのか予測がつかないほど、凶暴なオーラを放っている。


「た、田中……」

わたしは目の前で繰り広げられる凄まじい「新婚さんパワー」に、地の底までメンタルを突き()とされていた。

だが、なけなしのプライドを総動員させて、彼の方を向く。

「け…結婚、おめでとう。
な…七海を不幸にさせたりなんかしたら、許さないからね」

情けないほど、声が掠れて震えていないだろうか?

「ありがとう、水野。もちろん、絶対に七海を不幸にさせたりしないことを約束する。
……そういえば、君はおれの『義姉(あね)』になったんだよな?」

……あぁ、地に堕ちたと思ったメンタルは、まだ底を打ってなかった。

「なのに、おかしいよね、おねえちゃんも諒くんも。『田中』『水野』なんて呼び合ってさ」

七海が無邪気に笑う。

「仕方ないだろ?大学時代からの同級生で、庁内(会社)でも同期だからな」

田中が七海の頭を軽くこつん、とする。
その仕草は、地に堕ち切ったわたしのメンタルに、さらに無数の針を突き立てた。

わたしがあれほど願って……そして、ついに叶わなかった彼のやわらかい笑顔が……

……まっすぐ七海()だけに向けられていた。


「……七海、わたしはいいから、田中の友達の方へ行っておいで」

今のわたしに、それ以外にかけられる言葉があるのなら、だれか教えてほしい。

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