カラダから、はじまる。
「ちょっと、真澄くん、わたしのこと『賢いくせにとんでもなくバカ』ってどういう意味よっ⁉︎」
くちびるが離れたと同時に、わたしは彼に噛みついた。
「……先刻、あなたは『しあわせ』というものが『シーソー』だと定義づけて、反比例の数式を挙げてぶつぶつと論を展開していたけれども」
えっ⁉︎……もしかして「独り言」が聞こえてた?
「そもそも、なぜ『反比例』だと断定できるのかが、僕にはわからない。もちろん、どういう『相手』なのかによって、変わってくるとは思うけれど。でも、少なくとも結婚相手に関しては……素直に『比例』じゃダメなのかな?」
どう考えても腑に落ちない、というふうに、彼は顔を顰めた。
「y=axの比例式であれば、僕もあなたも同じ方向に向かって同じだけ進むわけだから、その振り幅に関係なく、それが喜びであろうと悲しみであろうと、いつも同じだけ享受できると思うんだけどね。
……夫婦って、そんなふうに同じ方向に向かって人生を歩んでいく相手のことだよね?」
……しまった。呆気なく論破されてしまった。
小生意気だった子猫が、すっかり元気をなくしてしまったかように、わたしはしゅんとなってしまった。ほとんど挫折知らずで育ってきたから、情けないほど打たれ弱いのだ。
……でも、どうしちゃったんだろう?
いつもはもっと上手に隠し通せるはずなのに、真澄くんの前ではそれができない。心がすっかり曝け出されてしまう。
「ほらほらほら……こんなことくらいで悄気ないで」
彼がわたしの頭をぽんぽん、とする。
「こんなわたし……めんどくさくない?」
わたしは上目遣いで彼の表情を探った。
こんな自分がめんどくさくて大っ嫌いなのは、実はわたし自身だ。だから、本当はだれにもこんな姿を見せたくない。
「……ものすごく面倒くさいね」
彼は取りつく島もなく、ため息とともに断言した。
……やっぱり。
わたしのメンタルは、地球の内部のマントルを突き抜け、核に向かってめり込んでいった。
こうなったら、もう地底人として生きていくしか、道はない。