触って、抱いて、もっと愛して。臆病な令嬢は貴公子の一途な熱情に蕩かされました(原題「その身体に触れたら、負け」)
 それと同時に、二人がどうにかやっているだろうことに胸を撫で下ろす。足さばきが軽くなった。

「領民の皆も元の生活を取り戻しているでしょうか」
「ああ。最初は動揺が大きかったけれどね。フリークス卿は領民に慕われているようだね。『信じられない』という声はあっても、彼を非難する声は上がらなかったな」
「父は言葉が足らないだけで、根は真面目ですもの。だから正直、私もまだ信じられなくて」
「人の心配ばかりだな、きみだって辛かっただろう」

 広間の喧騒が不意に大きくなり、彼の声がかき消される。
 彼女は訊き返そうとしたが、その前に彼が音楽に合わせて大きく重心を移動させた。

「とにかくやっと会えたんだ。今はダンスを楽しもうか」

 オリヴィアはその心地よい動きに身をゆだねる。

「話はまた改めて僕の執務室でしないか。あそこなら口の軽い令嬢達もいないからね」
「よろしいのですか」
「きみのことはいつでも歓迎するよ。話は通しておくから必ず来てくれ。僕もきみに謝りたいことがある」


 フレッドが、彼女の腰を抱く腕に力をこめる。

 真剣な眼差しとぶつかる。謝りたいこととはなんだろう。心当たりがない。

 オリヴィアはたっぷり逡巡してから、頬をほんのり染めてぎこちなくうなずき返した。


 その返事が自分を追いつめることになるとは思いもせずに。
< 100 / 182 >

この作品をシェア

pagetop