触って、抱いて、もっと愛して。臆病な令嬢は貴公子の一途な熱情に蕩かされました(原題「その身体に触れたら、負け」)
 夜会よりも緊張しているかもしれない。オリヴィアは、持参した巾着袋を包み込むようにして持った。

 鼻先を近づけるとカモミールの優しい香りとバターの香ばしい香りがして、少しだけ平静を取り戻す。振り返ると、エマが励ますように拳を小さく掲げた。

 案内に立った侍従が、フレッドの執務室の前でオリヴィアに頭を下げる。彼女は一つ深呼吸をしてから、ドアをノックしようと手を上げた。

「ダメよフレディ兄様、今すぐでないと! 宝石商が帰ってしまうわ」

 反射的に手が止まった。

 ドアに近づかなければ気づかないほどのかすかな声だ。後ろの侍従には聞こえないほどの。オリヴィアは耳を澄ませる。

「殿下、……これから人が……」
「そんなの、待たせておけばいいじゃない! ねぇ、お願い。フレディ兄様に選んでもらわないと困るわ。わたくしだけでは決められないの。収穫祭のときにつけるものなのよ。ね?」


 扉の向こう側から聞こえる親密そうなやり取りは、まぎれもなくフレッドとヴィオラ王女のものだった。
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