触って、抱いて、もっと愛して。臆病な令嬢は貴公子の一途な熱情に蕩かされました(原題「その身体に触れたら、負け」)
 オリヴィアは今年デビューを果たしたという、紫水晶《アメジスト》のような瞳を持つ勝ち気な王女殿下の顔を思い浮かべる。

「殿下、護衛は……。お立場を……」
「あら、フレディ兄様がいるから要らないわ。いざとなったら守ってくださるでしょう? 兄様はアルバーン家の騎士だもの。いっそ宰相補佐官なんて辞めて、わたくしの護衛騎士になってくださらない?」

 王女の弾む声ははっきりと聞こえるけれど、フレッドの声は低いからか聞き取りにくい。

「そう? じゃあ騎士の話は取り下げるわ。その代わり、一緒にネックレスを選んでちょうだい、ね? フレディ兄様の選んだものを身につけたいの」


 オリヴィアはドアの前で立ち尽くした。


 手にした巾着袋に目を落とし、オリヴィアは侍従に「帰ります」と微笑んできびすを返した。エマにも聞こえていたのだろう、強張った顔で付き従う。侍従が何かを言いたそうだったけれど、オリヴィアはそれ以上なにも言えなかった。

 噂は本当だったのだ。

 未婚の男女が共の者もつけずに二人きりで過ごしている。まして相手は王女だ。よほどのことがない限り、二人きりになどなれないはずだ。
 
 彼は愛称で呼ばれていた。親しい口調。彼は自分にしてくれたように柔らかな笑みで王女を見つめるのだろうか。
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