触って、抱いて、もっと愛して。臆病な令嬢は貴公子の一途な熱情に蕩かされました(原題「その身体に触れたら、負け」)
オリヴィアはうなだれた。
勘違いしてのこのこと来てしまって、自惚れもはなはだしい。
「案内してくださってありがとう。約束をすっぽかしてごめんなさいと伝えてくださる? それからこれ、良ければどうぞ。……カモミールを入れて焼いたクッキーです。お口に合うと良いのですけど」
正面玄関まで来ると、とまどう侍従に巾着袋を渡す。痛ましそうな表情のエマに微笑んで、馬車に乗りこんだ。
謝りたいこととは、このことだったのだろう。
王女殿下と想い合う仲になったこと。だからオリヴィアの告白には答えられないこと。
謝る必要はどこにもない。二人の縁はもう切れたのだから。それに彼の求めに応えられなかった自分よりも、良い縁談に心変わりするのは当然だ。
胸がかきむしられるようで息が苦しい。
玄関から正門までつづく道の両側に広がる庭園は、裏側に面した主庭園ほどではないにせよ見事なものだった。秋の初めの涼やかな風に、下草のあいだを縫って敷きつめられた王女と同じ名前の花がそよぐ。
白、黄、そして王女の瞳の色を煮詰めたような濃い紫が艶やかに視界を彩る。
フレッドの声が頭をよぎる。
『では今度は明るいときに案内しますよ』
そんな日は来ないのだ。
オリヴィアは迫り上がるものをこらえるために、奥歯をきつく噛みしめた。
勘違いしてのこのこと来てしまって、自惚れもはなはだしい。
「案内してくださってありがとう。約束をすっぽかしてごめんなさいと伝えてくださる? それからこれ、良ければどうぞ。……カモミールを入れて焼いたクッキーです。お口に合うと良いのですけど」
正面玄関まで来ると、とまどう侍従に巾着袋を渡す。痛ましそうな表情のエマに微笑んで、馬車に乗りこんだ。
謝りたいこととは、このことだったのだろう。
王女殿下と想い合う仲になったこと。だからオリヴィアの告白には答えられないこと。
謝る必要はどこにもない。二人の縁はもう切れたのだから。それに彼の求めに応えられなかった自分よりも、良い縁談に心変わりするのは当然だ。
胸がかきむしられるようで息が苦しい。
玄関から正門までつづく道の両側に広がる庭園は、裏側に面した主庭園ほどではないにせよ見事なものだった。秋の初めの涼やかな風に、下草のあいだを縫って敷きつめられた王女と同じ名前の花がそよぐ。
白、黄、そして王女の瞳の色を煮詰めたような濃い紫が艶やかに視界を彩る。
フレッドの声が頭をよぎる。
『では今度は明るいときに案内しますよ』
そんな日は来ないのだ。
オリヴィアは迫り上がるものをこらえるために、奥歯をきつく噛みしめた。