その身体に触れたら、負け ~いじわる貴公子は一途な婚約者~ *10/26番外編
 リリアナが彼女の手をぎゅっと握り、うっすらと涙をにじませた。

「わかったわ。こうなったら、フレッド様が地団駄を踏むほど幸せになるのよ! もっと着飾るところから始めなくちゃ、オリヴィア。いい? 地味なドレスはもうだめよ。今だってまったくリボンもレースも使ってないじゃないの」

 オリヴィアは裾まですとんと落ちたいちじく色のドレスを見下ろす。胸の下で切り替えるデザインで、飾りといえば切り替え部分に巻いたサッシュだけだ。舞踏会用のドレスでないとはいえ、リリアナによると「寡婦かと思うほど地味」らしい。

「オリヴィアの神秘的な目の雰囲気を生かすなら、リボンよりもレースかしら。見て、私のドレス。これ、クライドル産のレースよ! うっとりするほど繊細なの。あなたもこれをあしらうといいわ。いまクライドルのレースは流行りの最先端なのよ」

 レースが一大産業となった異国の名を挙げて、リリアナがぶんぶんとオリヴィアの手を振り全身をくまなく検分する。

 そうは言っても、フレッドは「着飾っても内面は変わらない」と言っていた。それなら今のオリヴィアがどれだけドレスを華やかにしたところで、美しくはなれないではないか。
 
 ……こんな心のままでは。

 卑屈なことを考えかけて、オリヴィアは自嘲をこめて首を振った。そもそも彼に見せる機会などない。
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