その身体に触れたら、負け ~いじわる貴公子は一途な婚約者~ *10/26番外編
「だめ……っ、ここでは、いや……」

 オリヴィアは確かに思いとどまらせるために言ったのに、その声は思いがけず甘えた響きになってしまった。フレッドがこらえきれないとばかりに彼女を抱え上げ、来たばかりの遊歩道を引き返す。そのまま王宮の正面脇に出ると、控えていた馬車に乗りこんだ。

 もつれこむように馬車の座席に並ぶと、フレッドがもう待てないという風に彼女をかき抱く。カーテンを閉める音がすると同時に唇が重なった。

 髪が解かれ、手を梳き入れられる。彼の長い指が這うだけで、甘やかな痺れがさざなみのように広がる。オリヴィアも彼にしがみついた。
 フレッドの手が彼女の耳をくすぐり、首筋を撫で、背中から腰へと滑る。押し当てられた唇や、触れられる肌の表面が熱を生んで、オリヴィアは吐息を漏らした。

「っ……、フレッド様、だめです」

 フレッドが口づけを続けながら、明確な意思をもって彼女に触れていく。

 これからはずっとこの人の隣にいられる。彼の腕の中にいても良いのだ。
 そう思うと、抵抗はほんの形ばかりのもになってしまう。

「誰も見ていないよ」
「そういうことではっ、……フレッド様」
「オリヴィア。きみは僕の妻になるんだ。フレッドと呼んで」

 耳元で甘やかな吐息とともに吹き込まれ、オリヴィアは頬を赤らめる。自分は最愛の人の妻になれるのだと思うと、多幸感で溶けてしまいそうな気さえする。

「フレッド……」


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