その身体に触れたら、負け ~いじわる貴公子は一途な婚約者~ *10/26番外編
王都より南に位置するグレアム公爵家の広大な敷地には、温暖な気候のおかげで春先でも柔らかい風が吹いていた。手入れの行き届いた芝生が見渡す限り続き、緑の萌えるさまが眩しい。空には綿をちぎったような雲が気まぐれに流れ、屋敷と同程度の広さがありそうな人工池には鴨などの水鳥が優雅に泳ぐ。
もうまもなく、この場所でグレアム家とアルバーン家の結婚式が執り行われようとしていた。
すでに司祭も到着し、ほとんどの列席者が礼拝堂に集っている。けれどオリヴィアはまだ礼拝堂に入らず、そこに面した庭を歩いていた。
「もう到着なさってもおかしくない時間なのに、フレッド様ったら何をしているのかしら!」
憤慨するリリアナに眉を下げて苦笑しつつ、オリヴィアは自身のウェディングドレスに目を落とした。
薔薇を模した繊細なレースをあしらった絹のドレスは、胸もとが大きく開き、彼女の身体のラインに沿うように流れるものだ。裾にかけてなだらかに広がるさまは華やかながら気品をかもし出している。ひじ上までの手袋も同じく繊細なレースによるものだ。
結い上げた髪には、白薔薇の生花を挿している。これは昨日フレッドから届いた。まだ薔薇の季節には早いだろうに、彼はどこからか両手に抱えきれないほどの白薔薇を用意してくれたのだ。
しかし花婿となる当のフレッドが、まだ公爵家に到着していなかった。
「……片がついた、と花束に添えられたカードには書かれていたもの。……もうお着きになるはず」
そう言いつつも、オリヴィアもやはり落ち着かなかった。
もうまもなく、この場所でグレアム家とアルバーン家の結婚式が執り行われようとしていた。
すでに司祭も到着し、ほとんどの列席者が礼拝堂に集っている。けれどオリヴィアはまだ礼拝堂に入らず、そこに面した庭を歩いていた。
「もう到着なさってもおかしくない時間なのに、フレッド様ったら何をしているのかしら!」
憤慨するリリアナに眉を下げて苦笑しつつ、オリヴィアは自身のウェディングドレスに目を落とした。
薔薇を模した繊細なレースをあしらった絹のドレスは、胸もとが大きく開き、彼女の身体のラインに沿うように流れるものだ。裾にかけてなだらかに広がるさまは華やかながら気品をかもし出している。ひじ上までの手袋も同じく繊細なレースによるものだ。
結い上げた髪には、白薔薇の生花を挿している。これは昨日フレッドから届いた。まだ薔薇の季節には早いだろうに、彼はどこからか両手に抱えきれないほどの白薔薇を用意してくれたのだ。
しかし花婿となる当のフレッドが、まだ公爵家に到着していなかった。
「……片がついた、と花束に添えられたカードには書かれていたもの。……もうお着きになるはず」
そう言いつつも、オリヴィアもやはり落ち着かなかった。