その身体に触れたら、負け ~いじわる貴公子は一途な婚約者~ *10/26番外編
 長いテーブルには純白のクロスがかけられ、中央に青みがかったごく薄い桃色の薔薇が生けられている。もしかしてこれもどこかから取り寄せたのだろうか。磨き上げられた最高級の銀器や陽光を七色に弾くグラスがいくつも並べられ、給仕がワゴンを押して行き交う。二人に気づいた者が次々に笑顔でお辞儀をする。

「そうなのね。招待した方の中には捕らえられた方がいなくて、ほっとしたわ」

 リリアナが同意して、オリヴィアのドレスの裾を持ち上げる。二人は池のほとりへと歩き出す。

「それにしたって、サイラスはもう中にいるのに。フレッド様ったら、髪型にでも悩んでいるのかしら」

 オリヴィアは小さく噴きだした。まさかとは思うものの、今さら王女から待ったがかかったのではないかと不安で仕方がなかったので、彼女の言葉に心が軽くなる。

「そうね。もうすぐ来られると思うから、リリアナも先に中に入っていて?」
「いいのよ! 私は栄えある介添人だもの、花嫁に付きまとってやるんだから!」

 彼女より一足早く既婚者になったリリアナは、本来未婚の女性がつとめる介添人を快く引き受けてくれたのだ。
池に流れ込む小川に掛かる橋を渡る。

「協力者の方に渡す褒賞でも検討しておられるのかしらね」
「リデリアとの関係にひびが入るところだったんだものね。その方はきっと爵位を封ぜられるか、そうでなくても何か特別なものをいただけるんでしょうね」
「フレッド様は褒賞を考えるより先に、オリヴィアに特別な口づけをしなきゃならないのに!」
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