その身体に触れたら、負け ~いじわる貴公子は一途な婚約者~ *10/26番外編
 二人は池のほとりまで来ると、空の映る水面を眺めた。

「良いお天気。もう初夏みたいじゃない? 結婚式日和だわ。オリヴィアはとんでもなく綺麗だし、空は気持ちよく晴れているし、出席者も……そう言えばアラン様は?」
「アランも来るはずなんだけど……」
「ちょっと、アラン様も遅刻!? もう、男どもは!」

 フレッドどころか、弟のアランもまだ姿を見せないのである。父親がいない今、せめてアランには見て欲しいのに。

 いや、本当は誰よりも父親に見て欲しかった。元は父親が結んでくれた縁なのだ。誰よりも父親に感謝を告げたかった。

 けれど、ここは領地ではないし、彼女自身も今日はグレアム公とバージンロードを歩く予定である。

 いつになれば、家族がまた集うことができるのだろう。

 表情がかげってしまうのを振りきろうと、オリヴィアは足もとの石を拾い上げ、池に放り投げた。ぽちゃん、とさほど跳ばないうちに水面にさざ波が立つ。

 リリアナも隣に並び、石を投げる。心なしか彼女の方が力が入っているのが可笑しい。
 もう一度、とオリヴィアはその場にしゃがみ、適当な石を探し始めた。ところがほどなくしてリリアナが彼女の肩を揺さぶった。

「ちょっ、オリヴィア! 顔! 顔上げて! あれ!」
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