その身体に触れたら、負け ~いじわる貴公子は一途な婚約者~ *10/26番外編
「奥様の瞳の色に合わせるのが難しいのでしたら、僭越ながら、……旦那様の瞳に合わせた宝飾品をお贈りになるのも一考かと存じますよ」

 ふくふくとした顔をさらに柔和にした商人からの提案に、フレッドより先にサイラスが食いついた。

「男のロマンだな。この女は俺のもの、ってわかりやすくアピールできる。『虫よけ』にもなるぞ」
「そうなのか?」

 半信半疑のフレッドに、商人も心得顔でうなずく。商機を逃さないとばかり、フレッドの瞳の色と見比べながら空色の宝石を並べ始めた。ちゃっかりサイラスの瞳の色に似せた青味の深い石まで並べられる。

 たしかに、空色は彼女の白い肌と深い森の奥のような静謐な緑の瞳に映えそうだ。フレッド自身も王宮の舞踏会で結婚の許可をもぎ取ったときには、彼女の瞳の色になるべく近いエメラルドのクラヴァットピンを身に着けたのだった。

 あれは自分の心は彼女のものだと周囲に……王女に示すためだったが。

 ただの自己満足だろうと言われれば否定できない。だが、ここにある空色の宝石を身に着けて笑う彼女を想像したら、その誘惑に抗えなくなった。
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