触って、抱いて、もっと愛して。臆病な令嬢は貴公子の一途な熱情に蕩かされました(原題「その身体に触れたら、負け」)
 フレッドはオリヴィアを見送ったその足で広間へ戻ると、歓談中の男女の中から目的の人物を見つけた。壁際に置かれたソファで令嬢と二人で語らっている。構わずに近づくと、男の方が片手を上げて寄越した。

「フレッド! しばらくだな。婚約者はどうした?」

 くすんだ金の髪に、灰青色の瞳を持つ精悍な男が相好を崩す。隣にいるのが見知った令嬢であったこともあり、挨拶もそこそこに彼は本題に入った。

「彼女は帰したよ。サイラス、もしかしてもう噂になっているのか?」
「せっかちなやつだな。久しぶりの再会だというのに挨拶もなしか? それによく見ろよ、俺はご令嬢と会話を楽しんでいるところなんだが」

 サイラスは、コーンウェル公爵家の嫡男である。主な官職を世襲制にしているアルディスにおいて、彼が宰相位を父親から継ぐのもそう遠くない時期だと目されている。すでに彼自身が、宰相補佐官として働いてもいる。寄宿学校で知り合って以来の友人だ。
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