触って、抱いて、もっと愛して。臆病な令嬢は貴公子の一途な熱情に蕩かされました(原題「その身体に触れたら、負け」)

「何が『ご令嬢』だ。君の婚約者だろう」
「だからこそじゃないか、俺が婚約者に愛の言葉をささやく時間もくれない気か」

 隣にいた令嬢が耐えかねたようにくすくすと笑った。

「ごきげんよう、リリアナ。今宵も相変わらずお美しい」

 リリアナが、一層ほがらかに笑った。

「ごきけんよう、フレッド様。相変わらず当たり障りのない褒め言葉ですわね」

 一瞬たじろいだが、小気味よい言動は不快ではない。彼女はサイラスの婚約者であり幼馴染である。これまでに三人で出掛けたこともあり、気心が知れた仲だ。

「オリヴィア様はどうされました?」

 フレッドはすっと表情を引き締めて二人を見下ろした。

「俺たち、実は見ていたんだ。言っておくが、俺たちが先にあの場所にいたんだからな? リリアナと四阿で語らっていたわけだ。ちょうど夕陽が綺麗な時間だったからな、良いシチュエーションだろう?」
「サイラス。彼女が僕の婚約者だと知っていたんだろう? 見ていただけか」
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