触って、抱いて、もっと愛して。臆病な令嬢は貴公子の一途な熱情に蕩かされました(原題「その身体に触れたら、負け」)
 それなのに自分はと言えば、泣きじゃくる彼女に理性をぐらつかせて、挙げ句の果てにまだ混乱している彼女に想いを告げてしまったのだから始末に終えない。フレッドははあとため息をついた。

 サイラスがにやりと口の端を上げて立ち上がる。

「フレッド。お前が激昂するところなんて初めて見たぞ。せっかくの再会だ、積もる話もある。場所を変えて少しのもう」

 リリアナも引き際を心得たように立ち上がり、手を振る。

「では何か私で力になれる事がございましたら遠慮なくおっしゃって。それからフレッド様、サイラスをよろしく御願いしますね」

 サイラスが行こうとうながす。二人は連れ立って広間を後にした。

「相手がフリークスの令嬢とはね。オリヴィア嬢は言い寄る男共を凍らせる『氷の瞳』だろう? 良くこの話がまとまったな」

 美しい天使を描いた天井画と煌びやかな装飾の施された廊下を通り抜ける。壁際に並べられたソファは、グラスを片手に令嬢に言い寄る男たちや、彼らのささやく賛辞にうっとりと目を細める女たちの甲高い声であふれている。

「彼女に僕が紹介されたのは全てが決まった後だ。逃れられなかったんだろう」
「そうだったのか」

 サイラスの素っ頓狂な声で二人に気づいた幾人かの令嬢が、思わせぶりな視線を向けるが、二人はそれらを相手にせずに進み、大階段を昇る。
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