触って、抱いて、もっと愛して。臆病な令嬢は貴公子の一途な熱情に蕩かされました(原題「その身体に触れたら、負け」)
「その賭けじゃどっちにしろお前は彼女に手が出せないじゃないか」
「あのときは別にそれでいいと思った。腹立たしかったんだ。こっちは彼女と結婚するのも悪くないと思っていたのに、彼女は『愛人を置いてもいい』とか言い出したんだからな。彼女こそ誰か他の男と訳ありなのかもしれない、ならこっちも好きにさせてもらおうじゃないかって思ったんだ」

 ウィスキーを勢いよく喉に滑らせる。喉が熱く焼けた。

「だが……彼女は男に恐怖心を抱えているんだ」

 サイラスが向かいのソファにどっかりと座り、足を組んだ。

「だから白い結婚なのか。それならさっきのことは相当トラウマを刺激しただろうな」

「ああ。せっかく心を開いてきてくれたところだったのに、振り出しに戻るかもしれない。それにまだ結婚するかどうかもわからない。彼女がこの婚約を取り止めたいと思えば、僕に触れればいいだけだからな」

「それはないんじゃないか? お前との婚約を解消したところで、いずれはどこかに嫁がなければならないんだ。それが白い結婚になる保証もない。ならお前と結婚した方が彼女にとっては安心じゃないか」

「そうかもしれない。その前提があるからこそ、僕は彼女のそばにいられる」

 サイラスが掛ける言葉が見つからないとでもいうように考えこんだ。

「この賭けはキツいな」

 二人は黙ってウィスキーをあおった。フレッドは立ち上がると二杯目をグラスに注ぐ。今度は氷を入れる気にはなれなかった。
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