触って、抱いて、もっと愛して。臆病な令嬢は貴公子の一途な熱情に蕩かされました(原題「その身体に触れたら、負け」)
 晩餐は終始なごやかに進められた。

 主に話題を提供し盛り上げるのはサイラスで、フレッドがそれに相槌を打ったり補足をする。ときにはサイラスを軽くにらみながら修正したりもする。随所でリリアナも婚約者をからかったり、あるいは婚約者を立てたりと仲睦まじさがにじみ出ている。オリヴィアはほとんど話を聴くだけだったが、三人は彼女のためにときおり説明を加えてくれるので、疎外感を味わうこともなかった。

「フレッドは、昔は冷たい男でさ」

 サイラスが二人を満足そうに眺めて口火を切る。寄宿学校時代の寮生活の中で一服の清涼剤だったという娘とのエピソードを披露した。

「寮監のお嬢さんで、週に一度だけ寮にやって来るんだけど、その娘が天真爛漫な感じの可愛い子で」

 男ばかりの寮内ではまるで天使のようだったという。貴族ではなく普通の町娘だが、愛想も良い。必然的に、彼女は寮の皆のもの、という不文律ができ上がったらしい。
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