無感情なイケメン社員を熱血系に変える方法
「なんで,,,責めないんだ?」

駿太郎が怪我させた相手"佐伯玲二"の親は、駿太郎だけでなく、駿太郎の両親のこともなじった。玲二はスイミンググラブの期待の星で、大きな大会を控えていたからだ。

"駿太郎のせいで出られなくなった"

周りの心ない同級生からの言葉が更に追い討ちをかける。

玲二自身はとてもいい奴で、ことあるごとに

「気にすんな。俺もボールしか見てなかったし」

と玲二を励ましてくれていたが、心を閉ざしてしまった駿太郎はそれ以来、いっさいの運動を遠ざけてしまった。

とはいえ、玲二は直後の大会こそ出られなかったものの、その後は順調に成績を上げ、大学時代はオリンピック強化選手に選ばれていた。

だから、駿太郎がずっと気に病む必要はないのだが、かたくなな駿太郎は同じところに立ち止まったままだった。

「不可抗力でわざとじゃないのになんで責めるの?」

彩月は言った。

「不運やピンチは平等に皆に訪れる。だけどそれを"大事に至らなくて良かった""このくらいですんで良かった"って思えれば、次に同じようなことが起こった時にどうすればいいか考えることもできるでしょ?」

「その彼女は今どうしてる?」

彩月は微笑んで言った。

「中学校で保健体育の先生やってるよ。もちろん陸上部の顧問。そこの生徒達も、うちの店舗のお得意さんなんだ」

立ち止まり続けていた駿太郎と前に進んだ彩月のライバル。

その違いが、駿太郎の人生の楽しみをも奪ってしまっていたのではないか,,,。

情けなさに、駿太郎は俯いたままの顔を上げることができなかった。
< 25 / 89 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop