無感情なイケメン社員を熱血系に変える方法
目的の駅につくと、彩月はまっすぐに東口を目指した。
待ち合わせの場所には、チェックのシャツにヴィンテージのデニム、キャメルのショートブーツを合わせた男性が一際、存在感を放って立っている。

しかし、アイドル顔負けの甘いフェイスには何の表情も浮かんでおらず、右手に握ったスマホを凝視しながら、周囲に近づくなオーラを出している。

見慣れないお洒落な姿に、彩月は内心ドキリとしながらも相変わらずの無表情にホッとして微笑んだ。

「羽生くん」

声をかけた彩月に目を向け、駿太郎が一瞬驚いたような表情を見せる。

彩月は

"やった!少しは動揺させた?"

と心の中でガッツポーズをした。

『ほら、やっぱり彼女来たじゃん。しかも完全にあんた負けてるし』

少し離れたところから、チラチラと眺めていた女性の二人組がこそこそと話しているのが聞こえた。他にも、あからさまに溜め息をついてその場を離れる女性がチラホラ見受けられた。

「どのくらい待ってたの」

「一時間」

「えっ?そんなに?」

「すれ違ったら嫌だから」

仕事とは違う、駿太郎のストレートな言動に振り回され、顔を赤くした彩月は

"イヤイヤ、勘違いするな"

と自分を戒める。

「な、なによ、駿太郎はそんなに私に会いたかったわけ?」

「うん」

うまく避けたつもりが、不覚にも正面からアッパーストレートを食らった感じだ。

「なにあれ、リア充じゃん」

周囲の冷やかしに耐えられなくなった彩月は、駿太郎の手を引いてその場を離れることにした。
< 32 / 89 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop