恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
「な、何もしなくてもいいのです。今夜はお疲れでしょうから、あの……一緒にいられるだけで」
自分でかなり大胆なことを言ったと今さら気づいたのか、鳴鈴の声はだんだん小さくなっていく。
「ああ、わかっている」
鳴鈴が自分を気遣ってくれていることが、飛龍には痛いほどわかっていた。
過去にこだわり、沈んでばかりはいられない。
自分はこれから、この幼い妃を幸せにしなければならないのだから。
「笛を吹いてくれないか、鳴鈴。この前のように」
鳴鈴はぱっと顔を上げた。
「お安い御用です!」
剣のように帯に差していた笛をいそいそと取り出し、鳴鈴は立ち上がった。
彼女が息を吹き込むと、優しい音色が空間を満たす。飛龍はまぶたを閉じ耳を傾ける。まだ血を流している生々しい心の傷が、徐々に癒されていくのを感じた。