恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
新しい紙を用意しながら緑礼が言う。飛龍が舌打ちしたが、鳴鈴には聞こえなかったようだ。
結局その日は何の成果もあげられないまま過ぎ、次の朝になってしまった。
「まあ、宇春!」
鳴鈴は喜びの声を上げた。翠蝶徳妃の部屋に、自分で活けた麦藁菊の花盆を持っていく途中、突然友人の宇春が現れたからだ。
「鳴鈴、会えて嬉しいわ! あなたが花朝節の帰りに襲われたり、星稜王府で毒殺未遂があったりしたって聞いて、心配していたのよ」
鳴鈴は近くにいた緑礼に花盆を預け、宇春の手を取る。
「私はこの通り、元気よ。星稜王殿下や翠蝶徳妃さまがお怪我をされたのだけど」
「ええ、それも聞いたわ。だから徳妃さまのお見舞いにやってきたの」
宇春は後ろに控えていた侍女たちに目線を送る。彼女たちが持つ盆には、山盛りの水菓子が。
「わあ、すごい。徳妃さまはきっとお喜びになるわ。でも、どうして宇春が徳妃さまのお見舞いに?」
首を傾げた鳴鈴に、宇春は明るく笑った。
「友達のお義母さまだもの、当たり前よ。ついでに自分のお義母様のご機嫌伺いも、たまにはしないといけないから」
後半は耳打ちだった。順番が逆じゃないかと思いながら、鳴鈴はくすりと笑った。