恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜

(まさか、刺されて……)

藻をかき分けながら必死で泳ぎ、鳴鈴の体をきつく抱く。衣装が水を吸って重くなっていたが、諦めるわけにはいかない。

飛龍は鳴鈴を抱いたまま、片手でもがいてなんとか水面に出ることに成功した。そこに緑礼と李翔が駆けつけてくる。

「お妃さまっ!」

二人は協力し、飛龍と鳴鈴の体を引き揚げた。

荒く息をしながら、鳴鈴の頬を叩く飛龍。

「鳴鈴、しっかりしろ、鳴鈴!」

意識は戻らない。小さな唇が紫色に変色していくのを見て、飛龍は彼女のあごを上げた。

息を吸い、唇を合わせて鳴鈴に吹き込む。何度かそれを繰り返すと、鳴鈴は少量の水を吐き出し、呼吸を取り戻した。

「なんてこと。ひどいわ!」

遅れて到着した宇春が取り乱して泣きだした。

飛龍はそれを聞いて罪悪感でいっぱいになる。鳴鈴の体に緑礼が差し出した上衣をかけようとした、そのとき。

(これは……)

飛龍の目に留まったのは、裂けた鳴鈴の帯だった。やはり刃物で刺されたのだ。

血がにじんでいないことを不思議に思ったが、急いで絡まっている帯を解く。そこからぽろりと、見覚えのある銅鏡が転げ出た。

装飾の龍が無残に傷ついていた。鏡が刃を受け止めてくれたのだ。

(どうして。誰が鳴鈴を?)

腹の中が煮えたぎる思いをどうにか押さえ、飛龍は鳴鈴の体を抱いて歩き出した。

自分が贈ったものを肌身離さず持っていてくれたことを嬉しく思う余裕は、なかった。


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