恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜

心ではそう思っていたのに、照れてしまって口には出せなかった。「自分は愛されているのだ」と、安心させてやっていれば。

そういう小さなことの積み重ねが、きっと鳴鈴の心を傷つけていたのだ。だからくだらない嫌味を言われたくらいで、ぽきりと心が折れてしまったのだろう。

「鳴鈴!」

大声で名前を呼ぶと、幼い妃はふっとこちらを向いた。その瞬間、後ろの茂みから突如現れた人影が、彼女の背後に立つのを、飛龍は見た。

「あ……っ」

危ない、と叫ぶ暇もなかった。人影に突き飛ばされたのか、鳴鈴の体がぐらりと揺らぐ。小さな足が滑り、大きな水音を立てて池の中に落下した。

人影はすぐに茂みの中に戻っていく。その手にきらりと何かが光ったのが見えた気がして、飛龍は総毛立った。

全力で駆けながら、飛龍は重い上衣を脱ぎ捨てる。そして迷いなく、池の中に飛び込んだ。

(鳴鈴、どこだ)

暗い池の中は無数の藻が揺れていて、飛龍の視界を遮る。自分の長い髪の毛すら、彼の行く手を邪魔した。

(いた)

やっと見つけた鳴鈴は気を失っているようだった。もがく気配すら見せない。

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