恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
生まれてから一度も泳いだ経験のない鳴鈴は何をどうしていいかわからず、混乱しすぎてもがくこともできず、そのまま気を失ってしまったのだった。
ぞくりと全身が震える。
自らが完全に死に向かっていたことを思い出した途端、怖くなった。
「気がついたか」
褥の中で丸まっていた鳴鈴に、背後から声がかけられた。びくりとして顔を出すと、牀榻の柱の傍に飛龍が立っていた。
「殿下……」
飛龍がいるということは、ここは黄泉の国ではない。自分が生きていると理解した鳴鈴は、ほっと息をついた。
「私、どうやって助かったのかしら」
「溺れたことは覚えているのか」
飛龍が牀榻の縁に座り、鳴鈴の髪を撫でる。
心配そうな顔をしている彼の瞳に、髪も結わず、化粧もしていない自分の顔が映る。恥ずかしくて、布団を上げて顔を半分隠した。
「ええ……ぼんやりと」
「下手人の姿は? 見たのか? 覚えているか?」
畳みかけてくる飛龍の顔が近づいてくる。鳴鈴は必死に思いだそうとしたが、できなかった。
「突かれたあのとき、私は殿下の方を見ていましたもの。そのままつんのめって、なんとかしようとワタワタしたけどできずに、そのままドッボーン……でした」