一途な御曹司に愛されすぎてます
「あの、専務さん」

 さっそくルームサービスのことを話そうとしたら、専務さんが軽く片手を上げて私を制した。


「どうぞ悠希とお呼びください。あなたは私の特別な人なのだから」


 甘さの混じった黒い瞳が、請うように私を見ている。

 男性からこんな可愛げのある目で見つめられたのは初めてで、キュンと甘酸っぱい気持ちになった。


 でも名前で呼ぶなんて、そんな馴れ馴れしいことはとてもできない。

 試しに心の中で『悠希さん……』と呼んでみたら、あまりにも気恥ずかしくてテーブルの下に潜り込みたくなった。

 それに異性を名前で呼ぶということは、ある種の特別な間柄を匂わせる行為だ。

 交際の申し込みをお断りする以上、そういうことは一線を引かないと。ここは名字で妥協してもらおう。


「じゃあ、ええと、階上さん?」

 そう呼んで反応を窺う私の目の前で、彼がちょっと考え込むような表情をした。

 そしてすぐに「まあ、今のところはそれでいいでしょう」と言って、満足そうに微笑む。

 その表情が、昨日彼が私に見せた少年みたいな得意顔と重なって、少し可笑しかった。
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