一途な御曹司に愛されすぎてます
 足元の大理石の感触がひどく心許ない。

 柱や天井を飾る豪華な装飾も、中世の優雅な風景画も、両目を淡々と素通りしていく。

 見知らぬ場所に迷い込んだ野良猫みたいな気持ちを抱えて、私は自分の浅ましさをつくづく思い知った。


 わかりきっていた事実を聞いただけのはずなのに、こんなにショックを受けているなんて。

 つまり私は『ただの友人』なんて言いながら、階上さんと特別な間柄になることを、完全に期待していたんじゃないか。

 だからバチがあたったんだ。


 康平のときにあれほど痛い目に遭いながら、まったく学習しなかった自分が招いた当然の結末だ。

 よりによってまたあの言葉を聞くことになるなんて、我ながら間が抜けすぎて笑いが込み上げてくる。


 自嘲しながら部屋に戻ると、ちょうどバトラーさんが花の飾りつけを仕上げているところだった。

 慣れた手つきで作業している燕尾服の背中に近寄りながら、私は静かに話しかけた。

 こうなった以上、自分がとるべき行動はひとつだとわかっていたから。
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