一途な御曹司に愛されすぎてます
「あの、すみません。お願いしたいことがあるんですけれど」

 両の目尻に数本の皺が目立ち始めた上品な笑顔が振り返る。


「はい? 何なりとお申しつけください」

「今すぐチェックアウトしたいんです。お願いできますか?」

「それはもちろん。ですが、送迎車の時間までだいぶ余裕がございますよ?」


 疑問の色が浮かんだバトラーさんの瞳を真っ直ぐ見ながら、私は沈んだ声で答えた。


「タクシーを呼んでください。そして専務さんにはこのことを黙っていてほしいんです」


 今後、階上さんと個人的にお付き合いすることはできない。

 もちろん彼と連絡先を交換することもできない。

 そんな私の決断を、彼はきっと受けいれようとしないだろう。

 でも受け入れてもらわなければ困るんだ。

 ただでさえ彼は周りから口うるさく言われることに悩んでいるのに、これ以上の悩みの種になりたくない。

 階上さんの負担になりたくない。……彼のお荷物だけにはなりたくない。

 このままだと、いずれそうなることは目に見えている。


「無理を承知でお願いします。どうか黙って私を行かせてください」
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