一途な御曹司に愛されすぎてます
 そう言ったまま口を噤んでしまった私を見て、バトラーさんの顔から徐々に微笑みが消えていく。

 彼は私の心の内を窺うような表情を見せて、でも次の瞬間には恭しく私に向かって頭を下げた。


「承知いたしました。直ちにそのように手配いたします」


 てっきり渋られると思っていたのに、ふたつ返事で了承されて逆にこっちが戸惑った。


「あ、あの、大丈夫ですか? あなたが専務さんに怒られたりとかしないですか?」


 自分から頼み込んでおいて勝手な言い草だとは思うけれど、それが心配だ。

 階上さんが私を特別扱いしているのは、バトラーさんもよくわかっているだろう。

 なのに、黙って帰ってしまう私をみすみす見逃しても大丈夫だろうか? 階上さんに咎められたりしないだろうか?


「どうぞご心配なく。私の職務は専務の言いつけを守ることではなく、矢島様のご希望を叶えることですから」


 私の不安を見越したように、彼が朗らかな声で答えてくれた。

 その優しさに感謝しながら、私は身の回りの物を入れたバッグを片手に、急いで彼の後に続いて部屋を出た。

 一刻も早くホテルを出てしまわないと。彼が戻ってくる前に。
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