一途な御曹司に愛されすぎてます
 優しく促され、私は軽く鼻を啜りながら素直にうなずいて立ち上がった。

 ふたり一緒にレストランから出てロビーに向かい、そのまま正面玄関を出ると、外はすっかり日が落ちて暗くなっている。


 階段を下りながら振り返ると、紺色に染まった空気にホテルの窓から漏れる黄色味を帯びた灯りが混じって、まるで幻想の世界に迷い込んだようだ。


 初夏の夜風に木々の葉がさわさわと揺れている。

 心地良い潮の香りを吸いながら石畳の路地を歩けば、真っ白な壁に点々と灯されたランプが、道の先へと私たちを誘う。


 まるで見知らぬ外国の町を彷徨っているみたい。

 でも少しも不安を感じないのは、隣に彼がいてくれるから。

 だから私は安心して、この極上にロマンティックな時間を心から楽しめる。


「喉が渇いたな。シャンパンを冷やしているから中に入ろう」


 ライトアップされたプールに一番近い部屋の前で、不意に彼が足を止めた。

 そして胸ポケットからカードを取り出し、扉の横にあるそこだけ近代的なリーダー機器にかざす。

 鍵が開く音が、私にはひどく大きく聞こえた。
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