一途な御曹司に愛されすぎてます
【もうスマホの電源切っちゃいなよ。日常と切り離された素敵な時間を過ごしてね!】


【うん、ありがとう。くれぐれもお大事に】


 メッセージのやり取りを終了して、私は窓から外を眺めた。

 目に映る景色はいつの間にか普通の町中の風景から、木々の緑と一本の舗装道路が続くだけの山道に変わっている。


 五月下旬の豊かな青葉が風にそよぐ様を眺めていると、不意に旅行客のひとりが「あ、あれじゃない?」と弾んだ声を上げた。

 声につられて前方を見たら、クネクネした細い山道が急に開けて広い高原が現れた。


 一面の緑の絨毯に点在する木々の群れと、遠くには青々とした山の峰。そしてなだらかな丘の上に、目指す古城ホテルが見える。

 まるでイギリスあたりの田園風景を見ているようだ。

 口々に感嘆の声を上げる旅行者たちを乗せたバスは、そのままゆっくりと進んでホテル入り口の手前で停車した。
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