一途な御曹司に愛されすぎてます
 ひたすら首を傾げていると、ピアノの表面みたいに艶光りしている黒い扉が左右に開いた。

 先に乗り込んだ専務さんが大きな操作盤を扱いながら、私を奥の方へ誘導する。

 一連の動きにまったく無駄がなくてスマートだ。なんというか、社交ダンスの男性パートナーにエスコートされているような気分。

 扉が閉まり、シンとした密室の中にふたりきりになって、さすがに気まずさと不安を覚えた。


 どうもなにかが、変だ。なにが?と聞かれても返答に困るけれど、なにかがおかしい。


 恐る恐る横目で眺める専務さんの淡々とした横顔は、まるでギリシャ石像みたいに整っていて目の保養には最適だけれど、心理的にはストレスを感じる。

 私のことを覚えているのかどうかを聞きたいけれど、どう切り出せばいいんだろう?

『すみません。私のこと覚えてます?』って?

 ヘタクソなナンパだと思われたらどうしよう。専務さんがイケメンすぎて声をかけづらいよ……。
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