蟲と世界
 地面が横にある。私は倒れているのだろう。
「生きてた」
 そういって体を起こす。前を見ると気の枝が風で揺れている。冷めたそうな空気。さっきのことは、よく覚えていない。
私はさっきのことを思い出す。意識が飛んでいたのは覚えていたが、それだけだった。
「目は冷めたようようね」
後ろから声がした。私は振り向くと一人の女性が立っていた。
「あなたは…」
 彼女は朝の駅で紡にあたった人だった。その時見た感じどうりだった。
「喰蟲(くちゅう)と呼ばれる怪物に襲われた。血も肉も、神経も脳も心臓も。あなたは体をぐちゃぐちゃにされたわ」
いきなり彼女が発した言葉。理解できなかった。体がぐちゃぐちゃにされた? 私はここにいるのだけど。
「何を言っているのですか」
私は彼女の言葉の意味を聞く。すると……
「ついてきて」
彼女はそういうと森の中に歩き始めた。何もわからずじまいのまま私はそれについていく。
二分ほど歩いた。すると彼女は足を止めて、前へ指をさした。私はその方向へ視線を向ける。すると目の前にとんでもないものが目映り込んできた。
 一言で言うなら鮮血で染まった肉塊。周りに落ちている布から、自分の制服だとわかる。見ていられない。普通なら吐き気がするだろう。もはや人間の形をとどめていないそれから白い骨が丸出しになっていて、もともとどこについていたのかなんてわかるわけがない。そしてとんでもないほどのにおいがする。これは腐敗の臭いだろうか。
 あまりの光景に私は言葉が出ない。漂う死の異臭の中ただ私は立っているだけだった。
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