蟲と世界

3話

 私は死んだ。確実に死んだ。あの怪物に襲われた。
 手も足も心臓も食べられてしまい、私の体はぐちゃぐちゃになった。人の形をとどめてなかった。残ったのは私の魂だけ、魂が宿る体がなくなった。そのまま昇天してまうのが普通だった。
 なのに私は現世(ここ)にいる。魂をこの世にとどめている。なぜだろうか。なぜ。なぜ。
そうだ。私は━━
 
「あなたの体は己蟲(キチュウ)という虫で構成されている。故にあなたの体はすべて虫。手も足も、目も脳も心臓も。人間だった頃からあるものは記憶と性格だけね」
「そんな。私はこれからどうすれば」
「安心して、人間と同じく、人間らしい生活を送ることはできる。むしろ人間より優秀なところもある」
 自分のの体がどうなったか理解した。それでも心が受け入れられない。自分に起こった悲劇。受け入れてはずがなかった。
 彼女の言葉を聞いたあと、恐る恐る聞いた。
「私はもう。人間じゃないんですか」
「そうよ。あなたはもう━━人じゃない━━」
 人じゃない。ついに認めたくなかった事実を認めなければならなくなったのだ。自分の中に悲しみと、絶望が襲う。
 でも助けてもらった。私の命をここに残してくれた。それは事実。感謝すべきことなのだ。
 私はどうすればいい? だひたすらに現実を理解しようとするしかなかった。人ではなくなったこの体。人間の生活を送ったところで所詮は贋作。人間を真似した偽物となるのだ。
「まぁそうなるわよね」
 彼女はため息混じりに言った。
「そうなるって、わかってたんですか!」
「そうよ。いきなり人間を否定されて冷静でいられる人なんていない。ましてはあなたは学生! 混乱するのは用意に想像できた! それとも……死ぬのがいい?! 理不尽に殺されて、自分の運命だったって諦めれることができるのかしら!」
 確かに混乱していた。あまりにも予想外の状況に出てきたこの気持ち、せっかく助けてもらった人に怒りをぶつけてしまったようだ。彼女も怒るだろう。強くに言い返してきた。
 でも何も言えない。
「すみません」
と言うしかなくなった。
「まあこうなったのも運命なのかしら。その身体についておしえてあげるから」
 ただ聞いていた。彼女の言葉は信じられなかったが、理解した。
 
 私は以下のことを学んだ。
まず、自分の蟲たちは操作できること。自分からそれらを引き離して遠隔操作も可能なようだ。
 次は人間と比べて。
 普通の人よりも高い身体能力を持っているが、危険なため制御しろのこと。学習能力も大幅に上がるとか。
 そしてできないこと。睡眠らしい。人間にとって睡眠とは、疲れを取ること、またその日あった出来事を整理する時間でもある。それを私の蟲たちは常時行っている故に、人間のその機能は必要なくなったようだ。。
 最後に蟲たちの名前を教わった。
 身体を構成する蟲たちは己蟲といって己蟲でできた人を蟲人と言うらしい。つまり愛守香は蟲人と化したのだ。

「わかったかしら」
「はい。わかりました」
 彼女は話を終えた。とても流暢で渡りやすい説明。ことの奇想天外さにまだ混乱が残っている私でも簡単に理解できる内容であった。話の内容を理解しているとこれまでとの話から関係ないのだが、ある質問が浮かんだので聞いてみた。
「あの……あなたの名前は…………あなたの名前は何ていうんですか」
 何かを考えているっぽい彼女は、私の質問に気がつくのに少し時間がかかった。
「私の名前ね」
 また何かを考え始めたようだ。
 あの、こっちの質問聞いているの? そんなふうに言ってやりたい気持ちをぐっとこらえる。
 10秒ほどたった。
「そうね。話すほどじゃないわ。Aさんとでもいって」
 どうでも良いように答えたようで私は少し苛ついた。
「それじゃ、あなたも遅いでしょ。もう帰りなさい。今何時かしら。」
 そう言いながらAさんは何かをポケットから取り出す。スマホ? それにしてもどこかで……あれ?
「それ私のスマホ。ちょっと盗まないでよ!」
 いきなり取り出された私のもの。私が死んでしまった故に服から取り出したものだろうが、使われたことに驚き奪い返してしまった。
「おっと取られてしまったわ。時間は見れたし、帰るわ。これ以上の質問は受け付けない」
 と言われたので座っている姿勢から身体を起こそうとする。するとAさんはあることを言った。
「あと,蟲人は気温をほとんど感じないからクールビズや防寒をしているようにすることね。あと、自分を強く持つこと。」
「えっ」
 彼女の言葉を聞いて下を向いた。着ていないし穿いてすらない。私は裸だった。これまで何も感じずに話していたこと。そして、この格好のまま家に帰っていたとしたらと思うと恥ずかしくなってくる。思わずひょうきんな声を出してしまった。
 しかし彼女は大切なことを見落としていた。体感温度よりはるかに大切なもの。自分を持つということに━━
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