ツンの恩返しに、僕は108本のバラを贈るよ
物凄く恩着せがましい言い方だが――。

作業中の現場だ。打ちっ放しのコンクリートが剥き出しになっている。
打ち所が悪かったら死んでいた?

「死亡者を出したら新社屋の汚点になるところだった」
「良かったですね、幽霊の出るビルにならなくて」
「ああ、そうだな。それも僕のお陰だ」

クーッ、いちいち恩を売ってくる人だ。でも、本当のことだから悔しいけど逆らえない。

「ご恩は一生忘れません」
「当然だ!」

ニヤリと口角が上がる。悪徳商人越後屋みたいな悪い顔だ。何となく嫌な予感がする。

「そう言えば、お前、現場をクビになったんだったな」
「ええ、そうです」
「派遣会社の方は自宅謹慎だったな」
「それが何か?」

いちいち人の気持ちを逆なでする人だ。

「だったらちょうどいい。辞めろ」
「はい? 何をやめろと?」
「派遣会社をだ」

何を無茶言い出すのだ? 人の収入源を!

「辞めたら路頭に迷います」
「もう既に迷子だろう? 違うか」

確かにその通りだが……肯定するのは悔しい。

「うちで使ってやる」
「まさか……丸東建設で!」

スーッと血の気が引く。それはダメだ!

「まぁ、取り敢えずこの足が完治するまでは家政婦代わりに使ってやる。個人契約でだ」

個人とは丸東建設関係なしに、ということだろうか?

「完治するのに期間は?」
「骨が元の状態になるには最低三ヶ月だそうだ」
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