俺様外科医の極甘プロポーズ
聞き間違いでないのなら、先生はいま「できない」といった。

「あの、おひとりで……」

「できないから、手伝ってくれ」

 瞬時には理解できなかった。壱也先生が私に頭を下げている。しかも、私に体を拭いてもらうなんてプライドが許さないのではないだろうか。

「本当にいいんですか?」

「どういう意味だ。いいからすぐにやってくれ」

「わかりました。……じゃあ、失礼します」
 
 私は先生の体を起こすと、袖から点滴を通して着ていたスクラブを脱がせる。

先生の背中は予想以上に筋肉がついていた。引き締まっていて無駄な脂肪のない体は彫刻のようにきれいだ。つい見とれそうになり、慌てて視線を外した。

「前はご自分でお願いします」

 そういってタオルを先生に渡すと背中側に回る。届かない部分だけ手伝って、残りは先生自身に拭いてもらった。病衣を着せて整えると、ようやく完了だ。

いつも何気なく行っているこの工程が、これほどまで果てしなく感じるなんて。こんなことを毎日やっていたら、身が持たない。

「早く退院できるといいですね」

「ああ、もちろん。松葉杖をかりて明日にでも自宅に戻るつもりだ」

「そうですか! それはなによりです」

 今日までの辛抱だ。私はほっと胸をなでおろしたのだけれど……。

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