ヴァンパイア・シュヴァルツの初恋
指をさしたのは、この住宅街のひと区画を占領する大きなお屋敷。
昔はきっと絢爛豪華であったとうかがえる洋館のつくりは、今はすべてが黒ずみ、廃墟のようにすすや埃にまみれている。
ここだけ周囲に住宅がないのはこのためだ。
昔から、この館は人を遠ざける力を持っているんじゃないかというくらい、誰もここに近づこうとしない。
しかし私は違った。
昔からこの館に惹かれていた。
ひとりがつらくなると決まってこの中へ忍び込み、暗く静かな空気に身を置いた。
すると不思議なことに、ひとりだっていいじゃない、そう思うことができたのだ。
この館はどこか自分に似ている気がしているのだ。
人を遠ざけてどんどん埃にまみれていく、その姿はまるで私を見ているようで……。
「ここに、羽の生えた赤い目の“ヴァンパイア”が住み着いてるって昔の人は言うんです。取り壊そうとすると不吉なことが起こるから、今では市の持ち物になっているそうですよ」
「へえ、そうですか」
夜野さんはさほど興味がない軽い返事をしたのに、足を止めたまま動こうとはせず、うっすらと笑みを浮かべている。
「あの、夜野さん……?どうかしましたか?」
「いえ、何でも。たしかに不吉な場所ですね」
彼はまた私の隣を歩き出した。