ヴァンパイア・シュヴァルツの初恋

アパートはそこから近く、あっという間に到着した。

夜野さんがまだ傍らにいたけれど、私はいつもの癖でエントランスのポストの中を確認した。

何か入っている。

ポストを開けてそれを取り出した。

「白雪さん?」

先を歩いていた夜野さんも、私がポストの前で足を止めていることに気づくと、振り返った。

私は彼に会釈をしつつ、取り立したものを確認すると、それはお菓子の箱だった。

重量があり、中身はクッキーの詰め合わせか何かだと見当がつく。

その箱の表面には手紙が添えられていて、開いてみると、丸くて可愛らしい文字が書かれていた。

【ニ〇ニ号室に越してきた坂下です。ご挨拶に行きましたが不在でしたのでこちらにお菓子を入れておきます。どうぞよろしくお願いします】

ニ〇ニ号室……?

「どうかしましたか?白雪さん」

そばで響く声にハッとして、とっさにお菓子の箱を抱え込んで隠した。

こちらへ一歩近づいた夜野さんから、こちらからも無意識に一歩距離をとっていた。

夜野さんもたしか、ニ〇ニ号室に越してきたと言っていたはずだ。
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