ヴァンパイア・シュヴァルツの初恋
お菓子の手紙が正しいなら、引っ越してきたのは“坂下さん”という人だ。
じゃあ、今目の前にいる“夜野さん”は誰……?
心臓の鼓動が速くなっていく。
思い返せば、夜野さんがこのアパートの住人だと証明するものは何もない。
スーパーで声をかけられて、私がそのままそれを信じただけだ。
「あ、あの……私、ちょっと忘れ物が……」
「え?」
また一歩距離をとった。
どうしよう、もしかしてこの人、怪しい人なのかな。逃げたほうがいいの……?
アパートの部屋に駆け込みたいけれど、部屋に入るには夜野さんを越えて行かなきゃならない。
立ちはだかる彼に近づく勇気はなく、私は後退りをするしかなかった。
すると彼は表情を変えた。
眉間にシワを寄せて眉を吊り上げ、優しい表情がみるみるうちに恐ろしいものへと変わっていく。
「さっき君が犯人がヴァンパイアだと言ったときは驚いたよ。……なにせ、その通りだからね」
伏せ目がちだった彼が白目を真ん丸くなるまで見開いたとたん、その中心の瞳は鮮血のように赤く染まっていた。
その赤い目を見せつけられた私はその場にガクンと崩れ落ち、尻餅をついた。
動揺のあまり買い物の袋を落とし、持っていたお菓子の箱も地面を転がっていく。