ヴァンパイア・シュヴァルツの初恋
逃げなきゃ……!
頭が必死に自分の体に指令を出した。
おぼつかない足でどうにか動かして立ち上がり前へと進むと、地面に膝を擦り、すりむけた傷口から血が垂れ出す。
赤い目の男は私の血を見た瞬間、一気にこちらへ向かって駆け出した。
ゾッとして、私も前屈みのまま、もと来た道を全速力で引き返した。
「嫌!!来ないで!!」
走り出したものの、明かりがついている住宅はひとつもない。
助けを求めようにもどこへ行ったらいいのか分からず、ただ前へと走るしかなかった。
後ろを振り向く余裕はないが、すぐ後ろを追いかける足音が聞こえている。
振り向けば、追い付かれる。
息が切れて徐々にスピードが落ちていき、私はとっさにたどり着いた『ヴァンパイアの館』の中へ逃げ込んだ。
隠れなければ。
普段ここへ忍び込んでいたおかげで、館内部の造りはよく知っている。
正面入り口から階段があり、その袖には左右に部屋がある。
右の部屋には小さな暖炉があることを思い出し、私は迷わずその暖炉の中へと身を隠した。