ヴァンパイア・シュヴァルツの初恋
いてもたってもいられず、列から外れたところをウロウロと歩き回った。
「あれ……?」
そのとき、目の前を男の人が横切った。黒いコートで、ウェーブの黒髪。
私は足を止めた。
この人混みの中、その人は私には気づかず通りすぎていったけれど、私は目が離せなかった。
「……ノア君、今の人、見ました?」
「え?いえ、僕はこうして髪の毛の中に隠れているので、前は見えませんよ。どうしたのですか?」
その人はすぐに人混みの中に紛れてしまったが、仮面を着けていても分かるほどの綺麗な形をした横顔だった。
「……シュヴァルツさんが……いたような……」
「えぇ? 本当ですか? どこです?」
周りを見渡してみても、もうどこにもいない。
やっぱり見間違いだったのかも。
また端のスペースに戻り、小さく縮こまった。
すると人混みを掻き分けて、アルバさんが戻ってきた。
「おう、終わったぜ」
「アルバさん!その格好は……?」
コートは変わらないが、そこから伸びている足は先ほどと変わっていた。ダークスーツに、ピカピカに磨かれた革靴になっている。
「ドレスコードに反してるから着替えろって言われただけだったぜ。リストはバレなかった」
アルバさんは懐から羊皮紙の束をそっと覗かせて、ウインクをしてみせた。
私はホッとしたが、手を掴んでそのリストを素早く彼の懐に戻した。
「焦りましたよ……。命拾いしただけなんですから、警戒して行きましょう」
「おう、はぐれんなよ」